ヴァニタス
私の目から、涙がこぼれ落ちた。

「――本当、ですか…?」

そう聞いた私に、
「ええ、本当です。

あなたは彼から解放されたんです。

これからは旦那様と一緒に、幸せな人生を歩んでください」

中年男が言った。

「では、私はこれで」

中年男はペコリと頭を下げると、私たちの前から立ち去った。

ドアの閉まる音が部屋に響いた。

「よかったね、果南ちゃん」

武藤さんがそう言って、私の頭をなでた。

「はい…」

私は首を縦に振ってうなずいた。
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