ヴァニタス
私はクロエさんから借りたハンカチがポケットの中に入っていることを思い出した。

クロエさんは返さなくていいって言ったけど、借りた物はちゃんと返さないといけないよね。

私はクロエさんに歩み寄ると、
「あの…ハンカチ、ありがとうございました」

ポケットからハンカチを出すと、クロエさんの前に差し出した。

「えっ…そんな、別にいいのに…」

クロエさんは顔の前で手を横に振った。

武藤さんは不思議そうな顔で、私とクロエさんを見つめている。

「でも、お借りした物ですから…」

呟くようにそう言った私に、
「そう、こちらこそ…」

クロエさんは私の手からハンカチを受け取った。
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