ヴァニタス
最初は何にもすることがなくてヒマだなって思ってた。

本当にこの町は海と山に囲まれた小さな町で、これと言った観光名所は特にない。

喫茶店もないし、図書館もない。

何もないとは、まさにこう言うことを言うんだって思った。

でも最近になって、悪くないかも知れないと思った。

暮らし始めた当初は苦手だった油絵の具の匂いも、心地いい匂いに変わって行った。

波の音を聞きながら武藤さんが絵を描いている後ろ姿を見ているのも、またいい時間だ。

油絵の具の匂いと波の音に、ソファーに座っている私のまぶたが重くなって行くのがわかった。

武藤さんは絵に夢中になっていて、私が眠りそうなことに気づいていない。

何か用事があったら、私を起こすよね。

そんなことを思いながら、私は目を閉じた。
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