ヴァニタス
40代…いや、30代の後半辺りだろうか?

少なくとも、私よりも年上と言うことは理解できた。

180センチくらいはあるんじゃないかと言う長身に、スリムだけど屈強な躰。

黒のハットに黒のジャケット、おまけに足元は黒の革靴――正直に言うなら、これらの格好はこの場所に似つかわしくないなと思った。

観察するように見ていた私に、彼の唇が開いた。

「何してるんだ?

ここから先は海だぞ」

しゃがれた声だった。

「わかってます…」

呟くように答えた私に、
「落ちたら死ぬんだぞ?」

しゃがれた声で彼が言った。
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