ヴァニタス
どうしてこの人は、赤の他人である私のために涙を流すことができるのだろう?

どうしてこの人は、赤の他人である私に生きることを強く切望するのだろう?

「――自分が死んだら全てが解決するなんて、思うな…。

果南ちゃんが死んだら、それこそ家族や友人が悲しむだろうが…。

果南ちゃんは生きて、愛する人を見つけて、家族になって、今までの悲しい出来事を忘れるくらいに幸せになって欲しいんだよ…。

そんなことを思う俺は、お節介なのか…?

わがままなのか…?」

泣きながら言った武藤さんに、私は首を横に振った。

「――ッ、うくっ…。

私、死にたくない…。

――生きていたい…」

泣きながらだったけど、私の唇から“生きる”と言う言葉がこぼれ落ちた。
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