夜明けのコーヒーには 早すぎる
肴(さかな)その一 ヒロコの愚痴
 「ったく、冗談じゃないわよ!」
 梅酒を一気に呷り、ヒロコはテーブルにグラスをバンッと音が響く程強く叩きつけた。
 その音のせいで、通り過ぎた店員がビクッとしてこちらを振り返る。
 よく割れなかったものだ。と思いつつも、ぼくは店員さんに向かって軽く頭を下げて、何でもないですよとアピールをした。
 ぼくの思いが通じたか、それとも触らぬ神に何とやらという心情なのか、店員さんは足早に立ち去ってくれた。
 「ちょっと!聞いてるの!」
 額と額がぶつかり合いそうな程、ヒロコは身を乗り出してくる。
 「勿論ですよ」
 ぼくは日本酒をちびりと呑んで答えた。
 このやり取りをするのは、今日、何度目だろうか?4度目までは数えてたのだが、もう諦めてしまった。
 今回の相手は、相当気に食わなかったらしい。
 「ふん!」ヒロコは腕を組みながら上体を戻すと、「梅酒ロック」と言ってぼくにグラスを差し出した。
 「つまみは追加しますか?」
 ぼくはメニューを開いて、呼び出しボタンを押した。
 「任せる」
 ヒロコはそっぽ向いて枝豆をパクり。

 「お待たせしました。ご注文をお伺いします」
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