夜明けのコーヒーには 早すぎる
 クロは日本酒を注文した。
 何故だか、妙に日本酒が飲みたくなったからだ。
 ユラも同じく日本酒を注文する。
 「シロさんのどこを好いたのですか?」
 ユラは、日本酒を一口呑んで言った。
 「どこっていうか、何ていうか。雰囲気かな」
 「雰囲気、ですか」
 「ああ。気が付いたら、好きになっていた。時々、無意識に彼女を眼で追っていることがある。それで、彼女と眼が合いそうになると眼を逸らすんだ。どうだい?まるで中学生の様だろう?自分でも情けないよ」
 クロは自嘲気味に笑うと、日本酒を呷った。
 「しかし、先も言った様に、シロさんには特定の恋人はいない様子。ならば、とにかく想いを伝えてみればどうですか?」
 「それはそうだけど―」クロはユラを見据える。「一つ、聞いていいかい?」
 「何でしょう?」
 「さっきから少し気になっていたんだけど、カトリさんはどうして、シロさんに特定の恋人がいないと言えるんだい?確か、余り個人的な付き合いが無いとも言っていたのに」
 「それはですね」ユラは妖艶な微笑を浮かべて、日本酒を呷る。「シロさんから聞いたからです」
 ユラの微笑に、くらくら仕掛けたクロだったが、何とか自分を抑えて意識をシロのことに集中する。
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