夜明けのコーヒーには 早すぎる
 ユラは話し終え、日本酒で喉を潤した。チーズのたっぷりと掛かった、シーザーサラダを頬張る。
 そんな呑気なユラとは対照的に、クロは肩を落として沈鬱な様子。
 クロの頭の中では、シロに好きな人物がいたことのショックが渦巻いていた。
 やっぱり駄目だ。
 言わないで良かった。
 傷が広がらないで済む。
 所詮は高嶺の華。
 ネガティブな言葉が浮かんでは消えていく。
 クロは大きく嘆息した。
 そんなクロに気付き、「どうしました?主任」とユラは声を掛けた。
 「どうしたも何も―」クロは自嘲気味に笑いながら、首を竦める。「失恋したじゃないか」
 「ん?」
 ユラは首を傾げると、「ああっ」と言って、得心した様に頷いた。
 「何を言ってるんですか。主任。まだ、何もしない内から」
 「うっ―」図星を刺され、クロはたじろぐ。「そんなこと言ったって、シロさんにはもう懸想相手がいるんだろう?」
 「ええ。十中八九、間違いありません。ですが、その相手が主任だとは思わないんですか?」
 「それは―」クロは、ユラから眼を逸らす。「一瞬思ったけど」
 「なら、想いを伝えれば良いではないですか」
 「いやいや。そうは言うけどもね、その考えは余りにも都合が良過ぎるんじゃないか?自分で言うのも何だけど」
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