夜明けのコーヒーには 早すぎる
 「確かにその通りです。ですが、可能性がある限り、言ってしまった方がすっきりするという人が多いですよ。まあ、飽くまで個人のことですから、無理強いは出来ませんが」
 「そうなのかも知れないが、同じ職場で上司を振るっていうのは気不味くないかい?」
 「勿論、気不味いです。しかし、そんなことは最初から解っていることではないですか。その言い訳は変です」
 「へ、変かな?」
 「ええ。何故ならば、主任は今日の情報次第では、シロさんへ積極的にアプローチしていた筈。でしょう?」
 「まあ、そうなるかも―」
 と答えつつも、クロは自分が女性を口説く姿を想像出来ない。
 そんなクロの機微に気付かずに、ユラは続ける。
 「ということは、主任はシロさんと付き合う覚悟があった筈です。付き合うということは、当然別れるという可能性もある。だから、主任は気不味くなることは承知の上だった筈ですよ」
 「そう、かも知れないな」
 クロは、ユラに言われている内にそんな気がしてきた。
 しかし、ユラは人が無意識の内に、自分に都合の悪いことを考えないようにする性質を見落としていた。
 つまり、クロは気不味くなるかも知れないとまで想定して、ユラに相談を持ち掛けたのではなかったのだ。
< 103 / 200 >

この作品をシェア

pagetop