夜明けのコーヒーには 早すぎる
 「どうしました?」
 ユラは怪訝そうに、クロを見やる。
 「いや、すまない」クロは、軽く頭を下げる。「でも、正直意外で」
 「まあ、わたしも聞かれない限りは答えませんからね。知らなくても、仕方ないです」
 「そうだね」と返事をしつつも、クロは「そっちじゃなくて、ダーリンって呼び方だ!」と言いたい衝動を抑えた。

 次の日の昼休み、ユラは昼食を食べようと会社を出たところで、シロに声を掛けられた。
 「先輩。お昼、ご一緒してもいいですか?」
 「いいよ」
 ユラが頷くと、シロはユラと肩を並べて歩き出す。
 シロはユラよりも、頭二つ分背が低い。そんなシロがユラの横にいると、まるで親子の様だ。
 二人が通ると、道行く人は思わず振り返ってしまう。
 二人の身長差も理由の一つだが、麗人が二人も揃ってるのである。異性同性を問わず、振り返るのも無理はない。
 尤(もっと)も、当の本人達は露も知らぬ様子だが。
 「先輩。お蕎麦でいいですか?」
 シロが言った。
 「いいよ」
 ユラは頷く。
 二人は、会社の近くの蕎麦屋に入った。
 中は疎(まば)らに席が埋まっているが、同じ会社の社員はいない様子。
 恐らく、某チェーン店の開店セールに皆流れているのだろう。
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