夜明けのコーヒーには 早すぎる

　麺なら何でも好きだが、特に笊(ざる)蕎麦が大好物で、ユラ自身は蕎麦は別腹だと思っているぐらいだ。
　二人が蕎麦を食べ終えると、もう昼休みが終わりそうになっていた。
　「そろそろ戻るか」
　ユラとシロは立ち上がり、会計を済まして蕎麦屋を出る。
　会社への道を歩みながら、「先輩。まだ、聞きたいことが沢山あるので、今夜付き合ってもらえますか？」とシロはユラに言った。
　「いいよ。わたしも、丁度シロさんに用があったし、ね」
　そう言って、ユラは含み笑いをした。

　会社が終わり、二人は居酒屋に来ていた。
　二人でゆっくりと話したいというシロの希望で、奥の座敷席に向かい合って座っている。
　二人とも梅酒を注文するが、ユラはロックでシロはソーダ割りだ。
　「お疲れ様」
　二人は互いのグラスを軽く当てた。
　ユラは梅酒を一口呑んで、砂肝を齧る。
　咀嚼しながらシロを見ていると、シロがほんのりと頬を染めて、「先輩。昨夜は、どういう訳で主任と？」と言った。
　少し梅酒を舐めただけなのに、既に眼が座っている。
　何かやばそうだな。
　と心配しつつ、ユラはさらっと、「少し交友を深めてただけだよ」と答えた。
　「怪しいです。非常に、怪しいです。どんな話をされたんですか？」