夜明けのコーヒーには 早すぎる
 「それは言えない。個人的な話だから」
 「やはりお二人は!」
 シロの眼に涙が溢れる。
 「まてまて。誤解してる!」
 と慌ててユラが言うも、シロは既にしゃくり上げていた。
 「ご、誤解、ですか?」
 「ああ。ようし、余り人に言い触らす趣味はないが、一つだけ教えよう。わたしにはダーリンがいる。だから、主任と何もある筈がない」
 Aセクシュアルだからね。
 ユラは心の中で、付け加えた。
 「だ、ダーリン!」
 シロは眼を見開く。
 「ん?何で誰も彼も、そこで驚くんだ。意中の男性をダーリンと呼ぶことは、古くからの伝統の様なものではないか。尤(もっと)も、ダーリングと言うのが正しいらしくて、意味は最愛の人を呼び掛ける時のあなた。そして、男女で使い分けられるものでもないらしい。つまり、わたしもダーリンのダーリンということだ。解る?」
 「えっ?ダーリンがダーリン?」
 シロは混乱して、首を傾げた。
 「まあ、それはいいとして、わたしには婚約者がいるから、主任とは何もない。だから、安心してくれ」
 「は、初耳です」
 「まあ、言ってなかったからね」
 ユラは梅酒を呷った。少し前まで、結婚とは無縁だと思っていた自分が、同僚に婚約者の存在を告げるのは何か妙な気分だ。
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