夜明けのコーヒーには 早すぎる
 「だから、それは言えないと―」
 と言うユラを遮り、「いえ、内容はいいですから、色恋関係だったかだけでも教えて下さい」と言って、シロは両手を合わせて、頭を下げた。
 やれやれ。
 と思いながら、ユラは少し悩み、嘘を吐くことにする。
 「色恋じゃないよ。安心してね」
 「そ、そうですか。良かったー」
 シロは安堵の息を吐く。
 「序(つい)でに言うけど、主任は恋人募集中だよ。立候補してみれば?」
 ユラは梅酒を呷りながら、破顔して言った。
 「わ、わたしなんかじゃ、とても主任と釣り合いませんよ」
 「そうかな?わたしは、お似合いだと思うよ」
 相思相愛だし、ね。
 ユラは心の中で付け加えた。
 「ほ、本当ですか!」
 「うん。わたし、嘘吐かないし」
 と言ってから、ユラの心は少し痛んだ。
 「嬉しいです。凄く」シロの目尻に涙が浮かぶ。「ありがとうございます。わたし、その言葉だけで満足です」
 「それは嘘だね」
 ユラは即座に否定した。
 「えっ?」
 シロは思わず、ぽかんとしてしまう。
 「そんなことで満足出来るなら、最初からわたしに、あれこれ問い質す必要はない筈だ。シロさんは、主任と恋仲になりたいのではないのか?いや、そうとしか考えられない」
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