夜明けのコーヒーには 早すぎる
 ユラは遠い眼をして、虚空を見つめる。
 「どんなことを、言われたのですか?」
 「大したことないことだけど、『二人はお似合いだ。結婚すればいい』っていうような意味のことを言われた」
 「お似合い、ですか」
 「そう。その言葉を聞いて、わたしも『確かにそうだな』と気付いて、ダーリンに求婚したの」
 「先輩から求婚を!」
 「そうだよ。何たって、ダーリンは真面目な教師だからね。元とはいえ、教え子と付き合うことに抵抗があったみたい。だから、わたしが押し切ったという訳」
 「す、凄いです。先輩。わたし、尊敬しちゃいます!」
 「そ、そうかい。そりゃ、良かった。―のかな?」
 シロの勢いに押され、ユラはたじろいだ。
 「でも―」シロは伏し目がちになり、「わたしには、とても出来そうにありません」と言って、梅酒を啜った。
 「ふむ」ユラは頷く。「内気というより、慣れないだけという感じがするね。シロさん、失礼だけど、今までに恋愛経験は?」
 「あ、ありません」
 「そうか。ご両親が厳しかったの?」
 「いえ、違います。むしろ、優し過ぎるぐらいで」
 「ほう。仲は良いの?」
 「はい。悪くない―と思います」
 「成る程。シロさんは優しいね」
 「優しい、ですか?」
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