夜明けのコーヒーには 早すぎる
 「でも、会社に入ることを認めてくれたんだから、シロさんの両親はきっと解ってくれるよ。試しに、これから自由に生きてみるといい」
 「自由に、ですか。しかし、急に言われても何をすればいいのか―」
 「なあにを仰いますか。先ずは、初めての彼氏を作りなさい。脈はありありだよ」
 ユラは破顔一笑すると、梅酒を呷った。
 「よ、よろしくお願いします」
 シロは姿勢を正し、頭を下げた。

 そして、次の日の昼休みになった。ユラは、クロを昼食に連れ出して、今夜の夕食の事を伝える。
 ユラが、クロの二つ返事を期待していると、「ず、随分と急だね。まだ、心の準備が出来てないんだが」という、頼りない答えが返ってきた。
 「大丈夫です。シロさんも、主任のことを悪く思ってない様子ですから。それに、シロさんの要望で、わたしも同席します」
 「そうか。それならば、何とかなりそうだ。よろしく頼むよ」
 「承知致しました。場所は、一昨日のお店にしましょう。主任の知っているお店の方が、主任も落ち着けるでしょうし」
 「そうだね。予約しておくよ」
 クロはそう言うと、携帯電話を取り出して店に掛ける。
 ユラはその様子を見つめながら、ゆっくりと食後のコーヒーを啜った。
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