夜明けのコーヒーには 早すぎる
 「ってことは、二人共同じぐらいしか、お互いのことを知らないって訳だ」
 ユラは、クロとシロを交互に見やりながら言った。
 「そうなるかな」
 「そうなりますね」
 クロとシロの二人は、そう言って頷いた。
 「ならば話は簡単。お互いのことを、教え合えばいい」
 「それもそうだね」クロは頷く。「シロさんはどう思う?」
 「わたしも、先輩の意見に賛成です」
 という流れで、クロとシロは自分のことを、相手に話し出す。
 やがて、店員の和服女性が土鍋を運んできた。
 鍋の蓋を開けると、湯気と一緒に昆布の微かな香りが鼻孔を擽(くすぐ)る。
 そして、透き通る様な鍋の中には、豆腐と白菜と鱈(たら)が、美味しそうに並べられていた。
 三人は、湯豆腐に舌鼓を打ちながら、お酒を呑み、互いの話に耳を傾ける。
 そうしてる内に、クロとシロの意外な共通点が判ってきた。
 どうやらこの二人、ミステリー小説が好きらしい。
 いつの間にか、ユラ其方(そっち)退けで、好きなミステリー作家の話題で盛り上がっている。
 ユラは熱々の豆腐を食べつつ、日本酒を呑み、幸せな気分でその光景を見守った。

 「明日は休みだから、もう少し呑もうか?」
 店を出たところで、クロが言った。
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