夜明けのコーヒーには 早すぎる
 明日のヒロコの胃袋が心配だ。
 「まあ、しかし、そのTという人がヒロコを自己中と評するのは至極当然のような気がします」
 ぼくは日本酒をちびりと呑んで言った。
 「何!」
 ヒロコがぼくを睨んだ。その形相は、大魔人も顔負け。いや、ブラウン管を通してない分、勝っているぐらいだ。
 ぼくは内心、蛇の前の蛙状態だったが、「といっても、ヒロコが本当に自己中心的な性格だと言っているわけではありません」と表情に出さずに言った。
 心臓が激しく波打っている。よく声が震えなかったものだ。
 「どういうこと?」
 ヒロコは怪訝な顔でぼくを見ながら、運ばれてきた梅酒を一口呑んだ。
 「簡単なことです。自己中心的な人間にとって、好ましいのは自分に従う者で、逆に自分に従わない者は自己中心的に映るのです」
 「そんなもの?」
 「ええ。実際にT氏がヒロコを自己中と評したのは、ヒロコが自分の意見に従わない自分勝手な人種に思えたからです」
 「ん~」
 ヒロコは腕を組み考えると、「思い出したら、また腹が立ってきた!」と言ってメニューを開いた。
 通り掛かった店員に、4、5品追加注文している。
 帰りに胃薬を買おう。ぼくは心の中でそう決心した。
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