夜明けのコーヒーには 早すぎる
 もしそうだとすれば、カミングアウトしたい自分と、したくない自分とがいるのだろう。
 どちらが本当ではなく、どちらも本当なのだ。
 そして、どちらも本当なのだから、どちらの気持ちに従おうと自分を偽っていることにはならない。
 詮のないこと、だな。
 スイセイは、心の中で呟いた。
 頭に靄(もや)が掛かった様な感じがして、身体が心地よい浮遊感に包まれる。
 スイセイの意識が消えそうになった、その時―
 ブーブーブー
 内ポケットの中で、携帯電話が震えた。
 頭の靄(もや)は晴れ、スイセイは意識を取り戻す。
 内ポケットから、携帯電話を取り出してみると、「カトリユラ」と表示されていた。

 「話があるから、『ロンド』まで来て」
 スイセイの耳に、電話越しのユラの声が甦る。
 思い詰めた様な声だった。
 もしかしたら、何か深刻な問題でも起こったのかも知れない。
 そう思うと、スイセイの足は自然に駆け出していた。
 駅から「ロンド」へ走る道すがら、スイセイの頭の中では思考が渦巻く。
 何故、自分は走っているのだ?
 生徒の為。
 本当にそうか?偽装結婚の相手を、捕まえておきたいだけじゃないのか?
 そうかも知れない。否定は出来ない。
 出来ないんだ。
 「出来ない」
< 126 / 200 >

この作品をシェア

pagetop