夜明けのコーヒーには 早すぎる
 スイセイは口に出していた。
 自分が、酷く醜い存在に思えてくる。
 しかし、そうだとしても、スイセイにはユラを放っておくことは出来なかった。
 「ロンド」へ着き、肩で息をしながら中に駆け込む。

 「おめでとう!」
 中に入った途端、スイセイはその言葉に出迎えられた。
 「へっ?」
 状況が飲み込めず、きょとんとするスイセイを、ヒロコが「ささっ」と言いながら奥の座敷席に促す。
 促されるまま腰を下ろしたスイセイの前に、大きな黒っぽいケーキが置かれた。
 そのケーキを見て、スイセイは得心する。
 ケーキには、ホワイトチョコレートで『Happy Birthday』と書かれていた。
 そう、今日はスイセイの誕生日なのである。
 自分でも忘れていた誕生日を祝われ、スイセイは戸惑うばかり。
 その間にも、ユリとヒロコとカドカワの三人は歌い出し、流れのままにスイセイはケーキに立てられた蝋燭を吹き消した。
 「おめでとう!」
 「あ、ありがとう―ございます」
 スイセイは軽く頭を下げた。
 「よし、スイセイさんの誕生日を祝って―」
 ヒロコはジョッキを掲げる。
 「乾杯!」
 皆で、それぞれの容器を軽く当て合った。
 キンッ
 スイセイの耳に、その音は気持ち良く谺(こだま)した。
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