夜明けのコーヒーには 早すぎる
 「今日は、ありがとうございました」
 スイセイは、ヒロコとカドカワに頭を下げた。
 「言い出しっぺは、ユラさんだよ」
 ヒロコは、ユラを横眼で見ながら言った。
 「そうでしたか。すみません。ユラくんに付き合わせてしまって」
 「気にしないでいいですよ。わたし達も、楽しみましたから―ねっ、カドちゃん」
 ヒロコはカドカワを見やる。
 「その通りです。それに、ユラさんの気持ちに絆(ほだ)されましたから、ね」
 カドカワは、破顔一笑して言った。
 「気持ち、ですか?」
 「ええ。ユラさんは、少しでもあなたに恩返しがしたいそうです」
 「恩返し、ですか―」スイセイは首を傾げる。「特に、思い当たることはありませんが?」
 「それは、ユラさんに直接聞いて下さい。ぼく達は、二人を応援してますよ」
 「はあ」
 スイセイは、首を傾げたまま頷いた。

 というやり取りがあった。
 スイセイには、ユラに恩を売った記憶が無い。
 自分がユラにしたことは、教師として当然のことだと思っているし、偽装結婚に付き合わせてしまったことを考えると、寧(むし)ろスイセイの方が恩義を感じているぐらいだ。
 そう、ユラに恩があるのは自分だ。
 スイセイはそう結論付けると、ユラへの恩返しの方法に思考をシフトしていく。
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