夜明けのコーヒーには 早すぎる
 スイセイは頷いた。それと同時に、ふと疑問が頭に浮かぶ。
 何故、ぼくはそんなことにも気付かなかったのだろうか?
 その答えは、ユラの次の言葉で判った。
 「実は、前々からダーリンの誕生日を祝いたかったんですよ。わたしは」
 「そうなの、かい?」スイセイは首を傾げる。「それは気付かなかった」
 そういえば、今までユラに誕生日を祝われたことは無かった。
 道理で、ユラが誕生日を知っている発想が出てこない訳だ。
 スイセイが得心していると、ユラが口を開く。
 「隠してましたから、ね。ぶっちゃけた話、わたしはダーリンに恩返しがしたいんですよ。あなたが居なければ、わたしは死んでいたかも知れない」
 「大袈裟だよ。ユラくんなら、ぼくなんか居なくても―」
 「いえ、それは違います」ユラはスイセイの言葉を遮る様に、ぴしゃりと言った。「高校生の時、わたしは自分勝手な孤独に囚われていました。あのままでは、勝手に思い詰めて、自ら命を断っていたでしょう。そんな状態から、わたしを救ってくれたのが、ダーリンなんです」
 「そういうものなのかな。でも、ぼくだって君には恩があるよ」
 「わたしに、ですか?」
 「ああ。君という、掛け替えのない友人が出来たのだから、ね」
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