夜明けのコーヒーには 早すぎる
 スイセイはそう言うと、小さな箱を取り出して、ユラの前に置いた。
 「だ、ダーリン。これって、まさか―」
 「うん。婚約指輪。ちゃんと、給料の3ヶ月分ぐらいだよ」
 「わたしに?」
 「勿論。ぼくと結婚して欲しい」
 「えっ、あのっ、偽装結婚ですよね?」
 「そうだね。一般的な結婚とは言えないからね。でも、夫婦の関係っていうのは、最終的に何でも理解し合える友人に落ち着くと聞いたことがある。ということは、ぼく達も良い『夫婦』になれるんじゃないかな?」
 「そう、ですね」
 ユラは頷いた。眼の前に置かれた箱を見つめている。
 「結婚して、くれるかい?」
 スイセイは、ゆっくりはっきりと言った。
 「謹んで」ユラは深々と頭を下げる。「お受けします」

 「これは目出度いですね」
 突然、仕切りの向こうから声がした。
 今まで静かだったので、スイセイはてっきり無人だと思っていたのだが、誰か居たようだ。
 「よし!祝い酒だ!」
 という言葉と共に、仕切りの向こうから現れたのは、ヒロコとカドカワだった。
 「な、何故お二人が此処に?」
 「何故もなにも」ヒロコは破顔する。「わたし達常連だもの」
 「そういうことです」
 カドカワはうんうんと頷いている。
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