夜明けのコーヒーには 早すぎる
 詮ないことだ。ぼくは心の中で呟いた。
 無視という行為が、最も残酷な行為だと知っている。だが、T氏はそれだけのことはやった。少なくともぼくには、だ。
 そしてもう一人、いる。
 ぼくは、酒とつまみを楽しむヒロコを見やった。
 「一つお願いしても、いいですか?」
 ぼくはヒロコを真っ直ぐ見据えて、言った。
 「ん?何?」
 「Y嬢とは縁を切って下さい」
 「え?」
 ヒロコは顔を顰(しか)めて首を傾げ、「どういうこと?」とぼくに尋ねた。
 「Y嬢がヒロコにした行為は、到底許せるものではないからです」
 ぼくはそう言って、日本酒を呷った。
 「Tをわたしに紹介したことを言ってるの?」
 「それも、あります」
 ぼくは言葉を区切り、ゆっくりと言った。
 「と言うと?」
 ヒロコは少し身を乗り出した。
 「順に説明します」
 とぼくが言った時、「ラストオーダーです」店員さんがやってきて言った。

 ぼくは店員さんにもういいですと断った後、「丁度いいです。河岸を変えましょう」と言った。
 「そうね。わたしの部屋で呑みましょ」
 ヒロコはそう言って、席を立った。
 「はい。今日はぼくの番ですね」
 ぼくは机の上の伝票を取って、レジに向かった。
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