夜明けのコーヒーには 早すぎる
 「行かないですね」
 ユラは即答した。
 「あっ、ごめん聞いちゃ駄目だった?」
 ヒロコはパンッと両手を合わせて、項垂(うなだ)れる様に頭を下げた。
 どうやら、ユラは知らない内に顔を顰(しか)めていたようだ。
 「い、いえっ、そういう訳じゃないです!すみません」
 ユラは慌てて、ヒロコと同じ様に頭を下げた。
 「本当に?」ヒロコはゆっくりと顔を上げる。「ならいいんだけど」
 「はい」ユラもゆっくりと顔を上げる。「もう昔のことですので」
 「そうなんだ」
 ヒロコは梅酒レモンティーを呑んだ。
 「良かったら―」ユラは言葉を区切り、少し逡巡した後、「少し、わたしの話を聞いてもらえますか?」と言った。
 「勿論」
 ヒロコは破顔一笑して、梅酒レモンティーを呷った。

 「わたしがまだ中学生の時の話です。その頃のわたしは、まだ自分がAセクシュアルだとは知りませんでした。ただ、人より恋愛に疎いだけだってぐらいで。でもその頃は、いつかはわたしも誰かを好きになるのだろうかとも思ってました」
 ユラは梅酒をロックに換えて、喉を潤した。
 「中学生だもんね」
 「はい。ですから、特に疎外感を感じることも無く、中学生活を送っていました。ただ―」
 「ただ?」
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