夜明けのコーヒーには 早すぎる
 別段皆と距離を取っている訳ではなく、ただ、お酒を呑みたいという欲求の方が、皆と仲良くなりたいという欲求よりも強いだけだ。だから、話し掛けられればそれなりに返答するし、質問もする。人付き合いに関しては、それで充分だとぼくは思っていた。
 一人、隅の席でお猪口を傾けていたぼくの隣に、ふと、人の座る気配がした。ぼくが隣に顔を向けてみると、そこにはヒロコが座っていた。しかも、何故か満面の笑みを浮かべて、ぼくを見下ろしている。
 ヒロコの名前も知らなかったぼくは、流石に面食らって開いた口が閉まらなかった。
 そんなぼくの様子をどう思ったのかは解らないが、ヒロコはテーブルの上のお銚子を手に取って、「ささっ」と言いながらぼくのお猪口に酒を注いでくれた。
 「あ、ありがとうございます」
 ぼくが戸惑いながらも礼を述べると、「わたしカトウヒロコ。あなたは?」とヒロコは言った。
 「ぼくはカドカワといいます」
 「そっか。じゃあ、カドちゃんね。これからよろしく!」
 「はい。こちらこそ。ヒロコ-さん?」
 「フフッ。ヒロコでいいよ」
 「解りました。ヒロコ」
 互いの自己紹介が済んだところで、ぼくとヒロコは乾杯をした。
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