夜明けのコーヒーには 早すぎる
 ヒロコは焼酎を呑む手を止めて、ぼくをじっと見つめている。
 ぼくは一旦、カルーアミルクで喉を潤した。
 「何故、Y嬢とK氏がヒロコを選んだか。その理由は、そんなに仲良くなく、縁を切っても大して影響がない人間。更には、仮にT氏によって酷い仕打ちをされようとも自分達の心が痛まない部類の人物として、ヒロコは選ばれたのだと思います」
 「それが、わたし?」
 「残念ですが。ヒロコはY嬢から久し振りに電話を受けたと言いました。正確には、どれくらい久し振りだったのですか?」
 「学生の頃に、大勢の呑み会で2、3回一緒になったぐらいの関係で、電話は連絡事項の時以来かな」
 「ヒロコはよく言っていますね?」
 「何を?」
 「酒を一緒に呑めば友人だ、と」
 「ああ」
 「ヒロコの美点の一つですが、今回はそれが仇になりました」
 「そうみたいね」
 ヒロコは肩を落とし、焼酎を一口呑んだ。
 「今日はとことん付き合います」
 ぼくはカルーアミルクを呷り、焼酎をグラスに注いだ。ヒロコのグラスに、軽くカツンと当てる。
 「うん。ありがと」
 ヒロコはそう言うと、焼酎を呷った。

 夜が明ける頃、眠るヒロコに布団を掛け、ぼくはコーヒーを淹れた。
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