夜明けのコーヒーには 早すぎる
しかし、ボーイッシュで細過ぎたあの頃を思えば、丁度良いと思われる。むしろ、今の方が、大人の色気が出てきたといった様子。
 「お久し振りです。リョウコさん」
 ぼくは姿勢を正して、お辞儀をした。
 「カドカワ―さん?」
 リョウコさんは、ぼくの向かいの席に座りながら、まじまじとぼくを見つめる。
 「どうかしましたか?」
 「い、いえっ」リョウコさんもお辞儀をする。「こちらこそ、お久し振りです」
 「本当にそうですね。もう、十年近く経ちますか」
 「そう、ですね」リョウコさんも、お絞りで手を拭きふき。「でも、変わりませんねー。カドカワさん。大学の時のまんま」
 「そうですか?」ぼくは首を傾げる。「自分では、よく判らないのですが―」
 「羨ましいわー。わたしなんて、ほらっ、こんなに太っちゃって、嫌になっちゃう」
 「いえいえ、随分魅力的になられましたよ」
 「またまたー」リョウコさんは、手招きをするように手を振る。「お世辞ばっかり」
 「お世辞だなんて―」ぼくは首を横に振る。「そういえば、リョウコさん。今の名字はマツモトさんでしたか?」
 「そうだけど、それが何か?」
 「いえ、記憶が曖昧だったので、少し確認しただけです」
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