夜明けのコーヒーには 早すぎる
 「そう?」リョウコさんは、ちょこんと首を傾げる。「それならいいんだけど―」
 ぼくは、ふと、リョウコさんの手に目をやる。少し指が荒れていて、日々の主婦としての生活を思わせた。光陰矢の如しというが、時間とは知らぬ間に過ぎ去っていくものだ。
 ぼくが、ぼんやりと時の流れに思いを馳せていると、「ごめん。遅れたおくれた」と言いつつ、ヒロコが片手を軽く挙げながら、座敷に入ってきた。
 「ヒロコ。久し振り」
 リョウコさんは破顔して、片手を軽く挙げ返した。
 「あら、リョウコ。随分と綺麗になっちゃって」ヒロコはそう言いつつ、ぼくの隣りに胡座(あぐら)をかく。「人妻の艶麗(えんれい)さかしら」
 「ヒロコまでそんな―」リョウコさんは、ぼくとヒロコを交互に見る。「しかし、カドカワさんといい、ヒロコといい、二人とも大学の時のまんまねえ。まるで、昔の写真から飛び出してきたみたい」
 「そう?」ヒロコは首を傾げる。「自分ではよく判らないけど―」
 「フフッ」リョウコさんは吹き出し、口に手を当てる。「あなたたち、見た目は対照的なのに、同じようなこと言うのね。フフッ」
 「えっ?何なに?」
 ヒロコは訳が解らず、ただ首を傾げるだけ。
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