夜明けのコーヒーには 早すぎる
 「ごめんごめん。二人の反応が面白かったものだから、つい」
 謝りつつも、リョウコさんの顔はまだ笑っている。まあ、何にせよ、楽しんでもらえて光栄だ。
 「ふうん。よく解らないけど、まっ、取り敢えず呑みましょ」
 ヒロコが店員さんを呼び、各々呑みたい酒と、肴を注文する。暫くすると、ぼくとヒロコが頼んだ日本酒と、リョウコさんが頼んだスクリュードライバーが運ばれてきた。
 「乾杯」
 お猪口とグラスが軽く当たり、小気味良い音が耳に響いてくる。ぼくは、突き出しの大根煮を摘まみ、日本酒を呷った。
 「それで―」ヒロコは手酌をしつつ、リョウコさんをちらりと見る。「何かあったの?」
 「えっ?」リョウコさんの眼が泳ぐ。「な、何かって?」
 「さあ?」ヒロコは肩を竦(すく)める。「わたしが知る訳がない」
 「リョウコさん。何か、ぼくたちに相談したいこととか、話したいことがあるのではないですか?―と、ヒロコは言ってます」
 「そ、それは―」リョウコさんは、スクリュードライバーをチビリ。「そうなんだけど―」
 「ふむ。何だか言いにくそうね。まあ、旧交を暖めるに徹するのもいいんだけど、ね」
 ヒロコは日本酒を呷った。
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