夜明けのコーヒーには 早すぎる
 「成る程。では、その電話が掛かってきた時の、旦那さんの様子はどうでした?」
 「周りが騒がしい時は、静かな場所へ移動するけど、それ以外はわたしの直ぐ側で出るわね。でも、わたしの聞いた感じだと、皆男性からの呑みの誘いとかそんなのみたい」
 「女性からの電話はないと?」
 「ええ」リョウコさんは頷く。「それに、不自然にこそこそしたりしないし」
 「そうなんだ」ヒロコは餃子をぱくり。「じゃあ、もしかしたら、言えない秘密はあっても、浮気じゃないのかも」
 「わたしもそう思ってたんだけど、ね」
 リョウコさんは嘆息して、スクリュードライバーを呷った。
 「何か、女性を臭わせる出来事でも?」
 「ええ。一度だけ、服に女物の香水がついていたことがあったの」リョウコさんは嘆息する。「わたしも、日本酒もらっていい?」
 「勿論」
 ヒロコは店員さんに、お猪口をもう一つ頼んだ。
 「それで―」ぼくは日本酒を呷る。「香水がついていたことを、旦那さんは何と?」
 「旦那に聞いてはいないの。どう聞けばいいか解らなくて―」
 「そうですか」
 「でもさ。付き合いで、キャバクラとかに行ったってことは?」
 リョウコさんは、首を横に振った。
< 176 / 200 >

この作品をシェア

pagetop