夜明けのコーヒーには 早すぎる
しかも、勝手に期待して。自分勝手にも、程があるよね。自分でも、嫌になっちゃう。でも、一人で悩んでいる時、大学の時のことを思い出して、ね。ヒロコとカドカワさんに、どうしても聞いて欲しくなったの。ごめんね」
 リョウコさんは俯き、嗚咽を殺す。しかし、滴り落ちる涙が、リョウコさんの胸の苦しみを物語っていた。
 ぼくは、何も言わずに、ハンカチをそっとリョウコさんに差し出した。
 「ありがと」
 リョウコさんは俯きながら、涙を拭った。
 そんな彼女を見つめながら、ぼくは頭の中で、必死に彼女の夫の浮気を否定しに掛かる。
 先ずは、携帯電話の件。これは、何か秘密はあるものの、浮気の証拠にはならない。
 次に、服に付いた香水の件。これは、早く帰宅したこともあり、かなり怪しいと思われる。
 その次に、土産を頻繁に買って帰宅するようになった件。これは、何かを隠す為のご機嫌取りとも考えられる。
 そして最後に、妙に賛美してくるようになった件と、妙にそわそわしている件。これらは、秘密を抱えていることの傍証になるかも知れない。
 ―と、そこまで思考した時、ぼくの頭の中に、ある仮説が浮かんだ。しかし、この仮説には、証拠がない。
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