夜明けのコーヒーには 早すぎる
 「実は、わたし意図的にカドちゃんに近付いたの」
 「意図的、ですか」
 「ええ」ヒロコは頷き、梅酒で喉を潤す。「わたしとカドちゃんが初めて話したあの呑み会、わたしが参加した理由はただ一つ、それは、カドちゃんが来ると聞いたからよ」
 「そ、それは―」
 どういうことだろう?ぼくが参加すると聞いて、ヒロコが来ると決めた?何故?ぼくに何か用があったのだろうか。しかし、記憶を探ってみても、それらしいことは無かった―と思う。ぼくが忘れているだけなのだろうか。そもそも、記憶なんてものは自分自身の思い込みのようなものなのだから、信憑性は低い―って、そんなことは、今はどうでもいい。今は、とにかく、ヒロコの言葉の真意を考えるんだ―とは言っても、本当に解らない。困った。
 ―などと、うだうだ考えて、ぼくが答えに窮していると、
 「一目惚れだったの」
 ヒロコは小さく、だけどはっきりと言った。
 「えっ?」
 「大学で初めてカドちゃんを見た時に、わたし、初めて運命を感じた。まるで雷に打たれたような衝撃って言うのかな。話しには聞いたことあったけど、まさか本当だったなんてね。その時は、自分に何が起こったのか解らなかった。
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