夜明けのコーヒーには 早すぎる
 「ええ、まあ。気づいたのは、今さっきですが」
 ぼくは、頭の後ろを掻きかき。
 「何と言えばいいのか解りませんがっ―」
 ぼくの口は、ヒロコによって塞がれた。
 驚くぼくを尻目に、ヒロコはぼくの舌を自分の舌と絡め、吸い上げる。まるで未知の生き物が、口の中で暴れ回っているようだ。
 「んっ」
 思わず、声が漏れる。ヒロコとの初めての口付けは、梅酒の味がした。
 唇を離して、ヒロコがぼくを見つめる。
 ぼくは破顔一笑し、
 「日本酒を呑みましょうか」
 そう言って、口付けを返した。
      *
 ぼくの仮説が正しければ、ヒロコの様子が変になったのは、リョウコさんの言葉によって、ヒロコは自分の気持ちが抑えきれなくなり、それと同時に過去の罪悪感を思い出してしまったのだろう。
 ヒロコらしい。
 ―ふと、寝室から物音がした。
 ぼくが振り返ると、一糸纏わぬ姿で、ヒロコが立っていた。
 ―美しい。
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