夜明けのコーヒーには 早すぎる
 途端、先程の甘酸っぱいさに加え、アルコールが胸に広がる感覚。
 悪酔いするな。と思いつつ、ぼくは日本酒とシャーベットの組み合わせを楽しんだ。

 「はぁ~」
 ヒロコが長い溜め息を吐き、目の前の焼き鳥を一本摘まんだ。
 どうやら、もうお酒の御利益はヒロコの憂鬱に負けたようだ。
 ぼくも砂肝を一本拝借して、今日何度目かになる愚痴に備える。
 「それでさ―」
 ヒロコが愚痴を溢(こぼ)し始めた。
 何度も同じところを往復し、時に感情的になるヒロコに代わりに、ぼくが事のあらましを説明するとしよう。

 事の起こりは数日前、ヒロコの友人がヒロコを映画に誘ったことから始まる。

 「ヒロコ。今度の休み暇?」
 久々の友人からの電話に、首を傾げながら出たヒロコは、友人からそんな第一声を受けた。
 「は?」
 ヒロコの口から、意図せずに低めの声が漏れる。
 「何?藪から棒に」
 「映画行かない?」
 ヒロコの言葉を軽く無視して、その友人は続けた。
 「どういうこと?」
 状況が呑み込めないヒロコは、友人(一々友人と書くのもややこしく面倒なので、以降はYとする)に再び尋ねる。
 はたして、「それよりも、休日は空いてるの?空いてないの?」という言葉が返ってきた。
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