夜明けのコーヒーには 早すぎる
 ユリさんはゆっくりと頷き、ヒロコの胸に顔を埋めた。小さな嗚咽が聞こえる。
 どうやら、ぼくの出番はないみたいだ。
 ぼくは立ち上がると、台所に向かう。
 暖かいココアを淹れて戻ってみると、ユリさんはヒロコの胸から顔を上げるところだった。
 暖かいココアは、人の心を落ち着かせる。っと言ったのは誰だったか?
 そんなことを考えながら、「どうぞ」ぼくはユリさんにココアを差し出した。
 「ありがとうございます」
 ユリさんは軽く頭を下げて、ココアを受け取り、ココアを啜る。
 ユリさんは長い吐息を吐いた。
 「ヒロコもどうぞ」
 「サン、キュッ」
 ヒロコもココアを啜る。
 「あちっ」ヒロコはコップから口を離し、顔をしかめた。
 「フッ」
 ぼくは少し笑い、ココアを啜る。
 熱い。少し、熱く作りすぎたかもしれない。
 ユリさんを見ると、笑いながらぼくとヒロコを見ていた。その笑顔は、十代の女の子のものだった。

 後日、ヒロコと一緒に呑んでいると、「そういえば、ユリさんが妙なこと言ってたわ」とヒロコが言った。
 「どんなことですか?」
 「カドカワさんに、頑張ってって伝えて下さいだって」
 「はて?」ぼくは首を傾げる。「どういうことでしょうか?」
 「さあ?」
 ぼくとヒロコは、一緒に首を傾げるだけだった。
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