夜明けのコーヒーには 早すぎる
 これではまるで、鬼顧問と体育会系の生徒といった図である。
 勿論、ヒロコが鬼顧問で、スイセイが生徒だ
 「スイセイさん。一つ聞いてもいいですか?」
 「はい」
 「先ほど仰られた噂とは、どのような噂なのですか?」
 「それはですね―」
 とスイセイが話始めた時、「失礼します」と言って、仲居さんが料理を運んできた。
 「どうもありがとうございます」
 スイセイは仲居さんに頭を下げ、礼を言う。
 「ありがとうございます」
 ヒロコもつられて、会釈をした。
 「先ほどの噂のことですが―」スイセイは茶碗蒸しを掬(すく)って、吸い込む。「ユラくんという元教え子と、時々呑むのですが、彼女の妹がカトウ先生の教え子だということで、時々酒の肴にさせていただいています」
 「ユラさん、ですか」ヒロコは記憶を辿る。妙に、引っ掛かる名前だ。「それで、妹さんは何て名前なのですか?」
 「ユリくんという名です。直接会ったことはありませんが、自分の妹にしておくのは惜しいと、ユラくんはいつも言っています」スイセイは細い眼を更に細め、弛んだ顔になる。「まあ、荒れていたユラくんも、今ではすっかり姉バカになってますよ」
 どうやら、見た目以上に温和な性格らしい。
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