夜明けのコーヒーには 早すぎる
 それにしても、まさかユリさんが出てくるとは。
 ヒロコは得心した。
 道理でユラという名前に聞き覚えがあった筈だ。
 ヒロコは、世間が思ったよりも狭いことを実感する。
 「それで?」ヒロコは眼を細め、悠然と微笑んでスイセイを見据える。「肝心の内容はどうなのですか?」
 「は?」
 「噂の内容ですよ」
 「ああ」スイセイは得心したように、頷く。「良いことばかりですよ。優しく、面倒見が良くて、まるで―」
 と、そこでスイセイは言葉を詰まらせる。
 視線を逸らし、何やら言い難い様子。
 「まるで、何ですか?」
 「あっ、いや―」スイセイは腕を組んで、眉を寄せる。「何といいますか。そう!姉さんのようだ、と」
 「ふーん」ヒロコはじっと、スイセイを見つめる。「嘘、ですね」
 「あっ、いやっ、それはっ」
 スイセイはしどろもどろとして、見ていて飽きない。
 ヒロコはそう思い、スイセイに好感を持った。
 「まあ、いいです」ヒロコは肩を竦めた。「それよりも、折角ですから楽しみましょうか」
 「はい」
 スイセイは破顔して、茶碗蒸しを再び掬って吸い込んだ。
 その後、お互いのことを話している内に、どうやら呑兵衛仲間だということが判ってきた。
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