夜明けのコーヒーには 早すぎる
 自然、今夜一杯という流れになる。
 それが、呑兵衛たる者の暗黙の了解であった。

 「すみませんでした」
 そろそろ河岸を変えて、ゆっくり呑もうかという時になって、スイセイが突然頭を下げた。
 「はい?」
 ヒロコは何のことか解らず、首を傾げるだけ。
 「いや、実は今日の見合いは、ぼくが是非カトウ先生を相手にと駄々を捏(こ)ねた結果でありまして―」スイセイはヒロコを拝む様に、両手を合わせた。「付き合わせてしまって、本当に申し訳ない」
 「ふうむ」ヒロコは腕を組み、暫し思案した後、「何故そんなことを?」とスイセイに尋ねた。
 「まあ、それは色々と事情がありますが―」スイセイは頭を掻きかき。「一番の原因は、ぼくがいつまでも独り身だということです」
 「成程(なるほど)。いい歳して独り身でいるんじゃない。孫を見せろ。見合いをしろ。というわけですか」
 「はい。その通りです」
 「しかし、何故わたしに?」
 「ユラくんから聞いたからです。ユリくんとカトウ先生のことを」
 「というとまさか?」
 ヒロコの頭に、ユリさんのセクシュアリティの事が過る。
 ヒロコは、何やら嫌な予感を感じた。
 「はい」スイセイはゆっくりと頷き、口を開いた。「ユリさんがカトウ先生に、告白したことです」
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