夜明けのコーヒーには 早すぎる
 「あっ、いや、これは―」
 ヒロコは何とか説明しようとするが、上手い言葉が浮かばない。
 すると何をどう勘違いしたのか、仲居さんは嫌悪感を露(あらわ)に、「うちの店では、こういうことされちゃ困るんですよ。どっか余所でやって下さいな」と言って去っていった。
 「何か勘違いされたみたいですね」
 スイセイが捻られた手首を擦りながら言った。
 「誰のせいだと―」
 と怒るヒロコを、「待って下さい!」スイセイは素早く制する。「話しを聞いて下さい。ぼくは、何をどうこうするつもりもありません。ただ、少し相談に乗って欲しいだけです」
 「相談?」
 ヒロコは眉を寄せ、胡散臭そうにスイセイを見やる。
 「そうです。そして、それが今回の見合いの目的でもあります」
 スイセイはじっとヒロコの眼を見つめる。その眼は真剣そのものだ。
 「うーん」
ヒロコはスイセイの眼を見つめ返した。
 暫く睨み合いが続いた後、ヒロコは嘆息した。
 「わかったわ。話しを聞きましょう」
 「本当ですか!」
 スイセイは破顔して喜ぶ。
 「但し!」ヒロコはぴしゃりと言った。「もう一人、わたしの友人も一緒よ」
 ヒロコは不敵な笑みを浮かべる。
 「それはもしかして、カドカワさんですか?」
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