夜明けのコーヒーには 早すぎる
 「な、何故カドちゃんのことを!」
 ヒロコの眼光が鋭くなった。
 「ユ、ユリくんのお話しと一緒にです。はい」
 「ふん」ヒロコは態(わざ)とらしく、鼻を鳴らす。「怪しいわね」
 「か、勘弁して下さいよー」
 スイセイは最早半泣き状態。
 大の大人涙眼に、流石のヒロコも覇気を抜かれた様子で、「まあ、いいわ」と言って、部屋を出ていった。
 慌てて、スイセイも後に続く。
 そして二人は、料亭を出て「ロンド」を目指すのであった。

       ※

 「成程(なるほど)」
 ぼくは日本酒を一口飲んで、一息吐く。
 一言で日本酒と言っても、合う合わないがある。自分に合った日本酒は、いくら飲んでも次の日に響かないが、合わないと悪酔いして数時間で頭が痛くなる。
 ここ「ロンド」の日本酒は、ほんのり甘く呑み易い。
 そして何よりも、ぼくに合っている。
 ぼくが毎晩のように「ロンド」に通っている所以(ゆえん)だ。
 その「ロンド」で、ぼくとヒロコと向かい合っている男性―名はスイセイというとか。
 温和そうな外見をしており、理由もなく親孝行してそうに見える。
 まあ、それは良いことなんだろうが、問題は深刻だ。どうもこのスイセイ氏、ユリさんのセクシュアリティを存じているのだとか。
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