夜明けのコーヒーには 早すぎる
 そして、何やらヒロコに相談があるご様子。
 とすると、スイセイ氏の目的は若(も)しや―
 「結婚、ですか?」
 ぼくは、スイセイ氏を見据えて言った。
 「あっ、あのっ、それはそのー」
 スイセイ氏はあたふたとしている。見るからに、図星といった様子だ。
 「どういうこと?カドちゃん」
 「それはぼくが話すよりも、本人に聞かれた方がいいと思いますが」
 「それもそうね」ヒロコはあっさりと引き下がると、スイセイ氏を睨んだ。「どういうことですか?」
 その声には凄味があり、有無を言わせない雰囲気が込もっている。
 ぼくでなくて、本当に良かったよかった。
 蛇に睨まれた蛙状態のスイセイ氏を尻目に、ぼくは鰹(かつお)のタタキを頬張る。
 うん。さっぱりしてて美味い。酒がすすむすすむ。
 ぼくはお銚子をもう一本追加した。
 そうこうしている間にも、ヒロコとスイセイ氏のやり取りは続いている。
 「実は、カドカワさんが察していらっしゃる様に、ぼくは同性愛者でして」
 「えっ?ちょっ、ちょっと待って下さい」ヒロコはスイセイ氏の言葉を遮る。「結婚云々の話から、何故あなたのセクシュアリティの話が?」
 「それは―」
スイセイ氏は言い淀み、助け船を求める様にぼくを見やった。
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