夜明けのコーヒーには 早すぎる
 どうやらスイセイ氏は、人に説明するのが苦手らしい。
 まあ尤(もっと)も、スイセイ氏の見合いの目的を考えると、説明しにくいという気持ちは解らないでもない。
 やれやれ。ぼくは心の中で嘆息して、頭を掻きかき口を開いた。
 「スイセイ氏が結婚と言ったのは、本当の意味での結婚ではありません。体裁の為の偽装結婚です」
 「偽装結婚?」
 ヒロコは首を傾げ、ぼくの言葉を呟くように繰り返す。
 「そうです」ぼくはお猪口を傾け、日本酒で喉を潤す。自然、口の滑りも滑らかになってくるというものだ。「偽装結婚には、外国人労働者が日本国籍を得る為のものと、体裁を繕う為のものの二種類があります。今回のスイセイ氏の言う結婚とは、後者の偽装結婚のことだと思います」
 「わたしに偽装結婚を申し込むつもりだったの?この人」
 「とは言っても―」ぼくは、ヒロコを手で軽く制する。「スイセイ氏の心情とすれば、偽装結婚を受けてくれるかどうかの確かめに来たという要素が強いかと思いますが?」
 ぼくはスイセイ氏を見やった。眼で「どうですか?」と問い掛ける。
 はたして、「はい。カドカワさんの仰る通りです」スイセイ氏はそう言って、頭を下げた。
 「お騒がせして、本当に申し訳ない」
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