夜明けのコーヒーには 早すぎる
 「そ、そうだったの―」ヒロコはそこまで言ってから言葉を区切り、「ですか」と語尾を敬語に変えた。
 どうやら、スイセイ氏へのあらぬ疑いは晴れた様だ。
 ぼくも一安心である。
 ぼくは冷奴をパクり。
 日本酒と冷奴、これ以上の幸せがあろうか?
 ぼくは誰ともなく問い掛けた。
 「しかし、どうしてわたしに偽装結婚を?」
 ヒロコは、スイセイ氏にビールを注ぎながら言った。
 そういえばスイセイ氏、店に来てから一杯も呑んでいない。
 それだけ緊迫した雰囲気だった、ということだろうか?
 ぼくはやはり、人よりも鈍いみたいだね。
 と、そんな感じで、ぼくが自己分析をしている間に、スイセイ氏は勧められるままにビールを一口呑んだ。
 見るみる内に顔が赤くなる。
 どうやらスイセイ氏、余り酒に強くないご様子。
 「カトウ先生にお願いしようと思ったのは、ユラくんからユリくんとカトウ先生の話を聞いたからです」
 「本当だったんですね―」と言ったヒロコは、何かに気付いた様にハッとなる。「わたし、スイセイさんの言うことを信じないであんなことを!」
 ヒロコは慌てて頭を下げて、「すみませんでした!」と謝った。
 「い、いえ!」
 スイセイ氏はあたふたしている。
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