夜明けのコーヒーには 早すぎる
 「そうだったのですか」ヒロコは、すまなさそうに軽く頭を下げる。「残念ですが、偽装結婚はお手伝い出来ません」
 「いえ、こちらこそ、無理を言ってすみません」
 スイセイ氏も軽く頭を下げた。
 結局、こういう図になってしまったね。
 ぼくは頭を下げ合う二人を見ながら、砂肝を齧る。
 この歯応えが、何とも言えなくて癖になる。
 そして、酒が美味い。
 「まあ、今回のことはヒロコの勘違いと、スイセイ氏の舌足らずの結果ですね」
 「そ、そうだね。カドちゃんの言う通り」
 ヒロコはぼくのお猪口に、酒を注ぐ。
 「面目無い」
 スイセイ氏は頭を掻きかき、ぼくに頭を下げた。
 やれやれ。そんなに頭を下げなくてもいいのに、ね。

 その後は話が弾み、ぼく達三人はすっかり呑み友になっていた。
 それから、スイセイ氏を少し勘違いしていたようだ。中々強(したた)かな御仁である。顔こそ赤くなるものの、量は結構呑むし、言葉も明瞭なままだ。
 油断がならない人物として、記憶に留めておくことにしよう。
 そしてぼくとヒロコはスイセイ氏と別れ、帰路に着く。
 いつもの如く、ヒロコの部屋呑みコースだ。
 ヒロコの部屋に着くと、ヒロコは先にシャワーを浴びに浴室に消えた。
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