夜明けのコーヒーには 早すぎる
肴(さかな)その四 ヒロコにおまかせ
 その日、ぼくはいつもの様に「ロンド」へ呑みに来ていた。
 ヒロコはいない。
 特別、待ち合わせをしている訳ではないし、その内来るかもしれないなと思いながら、一人で日本酒を呷る。
 二、三杯呑んだ頃だろうか?丁度、身体が暖かくなってきた時に、一人の女性が「ロンド」に入って来た。
 その女性は全体的に黒っぽい恰好をしいて、ロックバンドの女性ヴォーカルの様な出で立ちをしている。
 ぼくは横眼でちらりと見たものの、恰好良いなと思ったぐらいで、直ぐに心の伴侶であるお酒に意識を戻した。
 ぼくが鮪(まぐろ)の切り身を頬張りながら、日本酒に舌鼓を打っていると、人の近付いてくる気配がする。
 はたして、その女性はぼくの隣りのカウンター席に腰を下ろした。
 隣りといっても、「ロンド」のカウンターは席と席の間が広めに取られている為、何ら不思議はない。
 「焼酎ロック」
 その女性は、ハスキーボイスで注文をする。
 もしかしたら、本当にロック歌手かもしれない。
 ぼくはサインを貰おうかどうか悩みながら、日本酒を傾けた。

 それから、どれぐらい経っただろうか?ふと隣りの席を見やると、何とロックさん(仮名)がカウンターに突っ伏して眠っているではないか!
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