夜明けのコーヒーには 早すぎる
 「お愛想」
 とロックさんはハスキーボイスで呟く様に店員さんに告げると、会計を済まし、ふらふらとした足取りで「ロンド」を後にした。
 ぼくはそんなロックさんの後ろ姿を見送り、無事に帰宅出来るようにとエールを送った。

 ロックさんが店を出た後、ぼくは締めのお茶漬けを注文する。
 日本人だからだろうか?ぼくはお茶漬けを食べずには、呑み終われない質だ。
 そして今夜は鮭茶漬けにした。
 少し熱い茶漬けを一気に掻き込むと、身体が芯から暖まってくるのが解る。
 ぼくは幸せ気分で「ロンド」を後にした。

 ぼくはゆったりと帰路を歩く。
 ぼくの家は徒歩5分の場所にあるが、帰りはいつも夜空を見上げながら10分ぐらいかけて帰るのが常だ。
 今夜は満月。月は黄色く輝いている。
 ぼくは、ふとコーヒーが飲みたくなって、途中で自販機に歩み寄った。直ぐそこが家だというのに少し贅沢な気がしたが、酩酊状態では欲望に利がある。
 十円玉を2枚入れてから百円玉を入れようとした時、酔っていたせいか手から百円玉がポロっと落ちてしまった。
 そしてそのまま、自販機の横の家と家との狭い隙間に、転がっていく。
 これが十円玉なら諦めていたのだが、百円玉なのがいけなかった。
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