夜明けのコーヒーには 早すぎる
 「ん?」
 ぼくは首を傾げた。
 その足に見覚えがあったからだ。いや、正確にいうと足ではなく、足が穿いているズボンにだが。
 ぼくは携帯電話の明かりを、少しずつ足から上半身にずらしていく。
 やっぱりだ。
 ぼくは彼女の服を見て頷く。
 家と家との隙間の奥に横たわる人、それは「ロンド」でぼくの隣りに座っていたロックさんだった。
 俯せになっている為、顔は確認出来ないが恐らく間違いないだろう。
 しかし、何故こんな隙間に?
 ぼくはゆっくりと、ロックさんに歩み寄る。
 ロックさんの背中が、僅(わず)かに動いているのが見てとれた。
 どうやら、死んでいる訳ではないようだ。
 尤(もっと)も、死なれていては、状況的にぼくが困る。
 ぼくはロックさんの側に膝を着いた。
 ロックさんの周りを照らす限り、怪我などはしていない様だ。
 さて、どうしたものかと悩むぼくの眼に、ロックさんの右手の平に光るものが止まる。
 百円玉だった。
 ぼくは何だか可笑しくなって、苦笑する。
 どうやらロックさん、ぼくと同じ行動をしたらしい。
 只少し違うのは、彼女はぼくよりも素早く確実に百円玉を追い掛けていたみたいだ。
 百円玉を見失ったぼくなんかとは、えらい違いだな。
 ぼくは自嘲気味に苦笑する。
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