夜明けのコーヒーには 早すぎる
 目尻には、うっすらと涙が浮かんでいる。
 「痛い」そう呟くと、ロックさんはぼくの顔を訝しげに見つめる。「誰、ですか?」
 「ぼくはカドカワです。貴方は?」
 「カトリ、ユラです」ロックさん改めユラさんは、部屋を見回した。「ここは?」
 「ぼくの部屋です」
 ユラさんは事情が飲み込めないのか、首を傾げる。
 「わたし、どうしてここに?」
 「実は―」
 ぼくはユラさんに、事の経緯を簡潔に説明した。勿論、チョップの件は伏せてだが。
 「申し訳ない」ユラさんは説明を聞き終えると、立ち上がって頭を下げる。「酔っていたとはいえ、とんだ醜態を晒してしまったみたいで」
 「いえ、お気になさらずに。それよりも、体調は大丈夫ですか?大分呑まれていたようですが」
 「少し気怠いですが、問題無いです」
 「それは良かった。ところで、何か食べますか?簡単なもので良ければ用意出来ますが」
 「流石にそこまでは―」
 と遠慮するユラさんを、「丁度、ぼくも食べるところなんで」と少々強引に、リビングへと連れていく。
 「素麺(そうめん)でいいですか?」
 ぼくはユラさんに、お茶を出しながら言った。
 「はい。ありがとうございます」
 ユラさんは、椅子にちょこんと座った。
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