夜明けのコーヒーには 早すぎる
 ロック歌手の様な出で立ちをしているせいで、何だか可愛いらしくて少し可笑(おか)しい。
 ぼくはユラさんに微笑んで頷くと、台所へと移動する。
 大きめの鍋に水を入れて、火に掛けて蓋をした。
 沸騰するのを待つ間、ぼくはユラさんの事を考える。
 ユラさんはもしかして、ユリさんの姉のユラさんだろうか?
 しかし、ぼくはユリさんの名字を知らないので、確かめる術(すべ)は本人に聞くしかない。
 ―こともないが、手っ取り早いことは確かだ。
 これも縁なのだろうか?
 ぼくはそう思いつつも、何か引っ掛かるものを感じた。
 昨夜、ユラさんはどうして「ロンド」へ来たのだろうか。常連のぼくが知る限り、ユラさんが来たのは初めてだった。勿論、呑兵衛として新しい店を発掘するのは、珍しいことではない。だが、昨夜のユラさんはそんな感じではなかった。人それぞれ呑み方はあるけれど、初めて来た店で摘まみも注文せずに焼酎をがぶ飲みするなんて少し変だ。
 では、一体何の為に「ロンド」に来たのだろうか?
 ぼくは昨夜のユラさんの様子を思い出す。
 何だか、自棄酒(やけざけ)の様だった。
 ということは、何か自棄酒(やけざけ)を呑みたくなる様なことがあったから、偶々(たまたま)「ロンド」に来たということだろうか。
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