夜明けのコーヒーには 早すぎる
 実に美味しそうだ。
 ぼくは冷蔵庫を開けて、自家製のつゆを取り出す。
 鰹節と椎茸から出汁(だし)を取った自信作だ。
 椎茸の味がさっぱり感を出し、市販のつゆとは少し違う。
 ぼくは刻み海苔を素麺に振り掛け、下ろし生姜を用意すると、リビングへと運んだ。
 「お待たせしました」
 ぼくがテーブルの上に素麺(そうめん)を置くと、ユラさんが唾を飲み込む。
 やはり、お腹は空いている様だ。
 まあ、朝食を抜いているのだから当然といえば当然だな。
 すべからく、というやつだ。
 多目に作っておいて、良かったよかった。
 「どうぞ、召し上がって下さいまし」
 ぼくはユラさんに言った。
 「いただきます」
 ユラさんは素麺(そうめん)を一口啜った。
 「美味しい―」
 ユラさんは、ぼくをまじまじと見て呟く。
 どうやら、お気に召した様だ。
 ぼくも素麺(そうめん)を啜り始める。
 うん。いつも通りに美味い。
 その後、ユラさんとぼくは黙々と素麺(そうめん)を啜り、笊(ざる)の中の麺は姿を消した。
 「ご馳走様でした」
 ユラさんは手を合わせて、深々と頭を下げる。
 「お粗末様です」
 ぼくは苦笑を微笑みで隠し、台所へ食器を運ぼうとした。
 「わたしがやります」
 ユラさんはぼくの返事も聞かず、半ば強引に食器を台所へと運ぶ。
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